ドクタージャーナル20号
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2010/11/011山口キツネ・ハト模倣テスト(YFPIT)プロトコル ハトのジェスチャーの模倣は標準高次動作性検査にも採用されている一般的な動作の検査で、田邊敬貴先生はじめ多くの先生によって認知症への臨床応用がなされてきました。しかし、標準的な検査方法や診断意義は記載されていないように見受けます。そこで、今回、我々の検査方法と、それを用いた場合の診断意義について論文にまとめました(文献)。認知症を生活障害として捉える上で、動作障害に注目するべきだという問題意識からです。この検査は実施も判定も簡便で、忙しい外来診療で無理なく、また患者さんの負担も少なく実施出来ます。 以下に、検査の方法・結果の見方を略記しましたので、日常診療に役立てていただけましたら幸いです。なお、このプロトコルに沿って実施したものをYFPITとします。 群馬大学医学部保健学科 山口 晴保 yamaguti@health.gunma-u.ac.jp 【検査方法】 1.患者さんと相対して、座って下さい。 2.指示は「私の手をよく見て同じ形を 作って下さい」と一度だけ言います。 (了解が悪ければ繰り返しても良い) 3.最初は影絵のキツネの形です。 4.図Aの形を約10秒間提示します。 この間は無言で、「キツネ」や「よく見て」などと言ってはいけません。 心の中で10秒カウントし、模倣を評価します。 5.次にキツネと同じ指示を繰り返して両手で作ったハト(図B)を10秒間提示します。両手掌が自分の方に向き、母指が組み合わさっています。この間無言で、模倣を評価します。 6.キツネ・ハトともに提示している10秒間の内に模倣ができれば○、できなければ×とします。×の場合は、エラーパターン(裏面)を記録します。 【注意点】実際に行う際には次の点にご留意下さい。 1.指示は患者さんが模倣を始める前しか言いません。聞こえない場合等もありますので、患者さんが手を動かす前なら繰り返しても良いですが、患者さんが動作を開始した後で指示を繰り返すと「あなたの作った形は誤っています」という指摘になってしまいます。 2.即時模倣の検査を目的としていますので“キツネ”“ハト”という動作に関する言語的な指示は行いません。言語的指示による運動企画は別の機能となります。ただし、患者さんが“キツネですね”という場合もありますが、答えないでください。 3.最初に簡単な片手のキツネを行ってから両手のハトを行うようにして下さい。キツネは中等度の認知症までほぼ全員ができます(重度認知症では不能に)。これができることで、指示を理解していることや、視覚に問題がないことが分かります。また、保続の見られる患者さんでは、キツネを前に実施することにより、ハトの動作はより困難となります。 図Aキツネ見本図Bハト見本2010/11/012図E手掌・手背パターン020406080100健常MCI軽度中度重度キツネハト認知症020406080100健常MCI軽度中度重度キツネハト認知症図F 把握パターン図D 手掌・手掌パターン図C手掌・手背パターンですが、形が違うので×【評価】結果の評価は次の点をチェックします。 1.10秒以内で模倣できるかどうか。10秒以内に間違えた形を修正するのは許容されます。 2.キツネは左手で見本を作りますが、患者さんはどちらの手で作っても正解とします。また、ハトは両手を組み合わせますが、どちらの手が上(外側)になっても正解とします。 3.ハトのエラーパターンは、外を向いている手掌・手背の組み合わせで決めます。両手背が外向きの「手背・手背パターン」が○ですが、形が正しくなければ×(図C)です。 4.親指は交差している必要があります。全体的認知が困難な患者さんには手を重ねることにとらわれて、指の交差を看過する方も見られます。逆に、指の交差に注意が集中し、最初に指を交差してしまって、どのように模倣して良いのか分からなくなる方もいます。 5.MCI~軽度認知症(CDR 1)では、両手背を自分の方に向ける逆向きの「手掌・手掌パターン」(図D)を示す誤りが多いのが特徴です。これは、「相手には自分とは異なる像が見えることを理解する」という視点取得の困難を示しています。発達段階では概ね4歳までに視点取得を獲得します。本人は誤りに気づいていないことが多いです。 6.手背と手掌が外向きだと「手掌・手背パターン」(図E)です。 7.図Eの片手でもう一方の手を握ったり、両手を組み合わせたりする「把握パターン」(図F)は、重度認知症(CDR 3)に限られます。 【研究結果】認知症の簡易検査として 患者さんは見本を10秒間見られるのに、ハトは軽度認知症(CDR1)で8割近くができなくなり、MCIでも約5割が間違います。視空間認知やボディイメージの障害が、アルツハイマー病の早期からみられるようです。 また、私たちは患者さんの気持ちを傷つけないことを重視しています。本テストはゲーム感覚で気軽にやっていただけます。手掌・手掌パターンは、本人が誤りに気づかない場合が多く、本人の気持ちを傷つけないですみます。間違えても「良くできました」と言いましょう。また、「見え方をチェックする検査です」と伝えると、患者さんは正否をあまり気にしなくなるようです。 文献 YamaguchiH,MakiY,YamagamiTYamaguchiFox-PigeonImitationTest:ARapidTestforDementia.DementGeriatrCognDisord2010;29:254–2580510152025303540455001234567891011健常MCI軽度認知症中等度認知症認知症初期症状11質問票 マニュアル SymptomsofEarlyDementia-11Questionnaire(SED-11Q)目的:認知症のスクリーニングです。当質問紙は、認知症の診察の必要性の目安として用います。記入:介護者などが、対象者の最近1か月の状態について、日々の生活の様子から判断して、あてはまるものに○を付けます(ただし、原因が痛みなど身体にあるものは除きます)。記入は、同居の方など、対象者の生活状況を良く知っている方にお願いします。認知症を発症すると、病識が低下するので、本人が記入したものでは認知症スクリーニングの評価ができません。”ある”、もしくは”ない”、のいずれかで記入し、”ある”の合計数を点数とします。どちらともいえない場合は、不明ではなく、なるべく“ある”か“ない”で記入してもらいます。判断基準:医療機関では、3点以上で認知症を強く疑います。地域での認知症スクリーニングでは4点以上で受診を勧めます。点数が高いから直ちに認知症ということではありません。なお、被害妄想などの妄想や、幻視・幻聴がある場合には、点数にかかわらず、受診・精査を勧めます。解説:ROCカーブのareaundercurveは0.932(95%信頼区間 0.903-0.979)と良好で、2/3のカットオフ値では、感度が84%、特異度が90%,となります。統計的に最適なカットオフ値は2/3で、診療ではこのカットオフ値を、認知症の詳しい検査に進む目安とすることが出来ます。地域で認知症のスクリーニングに用いる場合は、3/4のカットオフ値を用いることが推奨されます。この場合、感度は76%と下がりますが、特異度が96%となります。地域では、“見過ぎ”の擬陽性の危険を少なくするために、高い特異度が優先されます。図1 CDR0-2の回答割合図2 ROC曲線文献:Maki Y, Yamaguchi T, Yamaguchi H: SymptomsofEarlyDementia-11Questionnaire(SED-11Q): A brief informant-based screening for dementia. Dement Geriatr Cogn Disord Extra 3: 131-142, 2013 (DOI:10.1159/000350460)感度1-特異度CDR0が健常、0.5が軽度認知障害(MCI)、1が軽度認知症、2が中等度認知症です。カットオフ3/4カットオフ2/3

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