ドクタージャーナルVol.16
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7DoctorsJournal■若年認知症の最大の問題とは:宮永和夫氏 医学博士若年の認知症は20年以上前から見つかっていましたが、国の対応はされないままでした平成元年から大和病院で認知症の疫学調査を始めました。また平成3年から6年までは群馬県の仕事で県内の地域や施設内の認知症の人の実数調査を行いました。当時は老人病院や老健、特養で認知症の問題が出始めていた頃ですが、調査の中で若い人が認知症で精神科の病院に入院している事例が散見されました。その頃は「高齢者保健福祉推進10か年計画」が制定されて、高齢者だと老人施設に入れますが若い人は入れないという状況でした。そこで平成7年に、当時の厚生省精神保健課課長に、若年の認知症に対して老人の認知症と同様の対応をすべきではないかと訴えたのですが、群馬県だけの調査結果では国の政策には反映できない。と言われ、全国規模での調査の必要性から平成8年に厚生労働省厚生科学研究若年痴呆研究班を組織して調査を開始しました。当初は防衛医大教授一ノ渡先生が主任研究者でしたが途中で学長になられたのを機に、私が主任研究者を引き継ぎました。若年認知症の名称を作ったのはこの研究班においてです。実際には全国調査が始まる随分前から若い認知症の人は見つかっていたのですが、多くの場合精神科の外来で診ていて、対応できずに精神科の病院に送っている事例が多くありました。ハンチントン病などの遺伝による患者さんも多かったのですが、しかしその中には若くしてアルツハイマー病を発症している患者さんもいたのです。ただ、現場では漠然と感じていただけなので、実際に若い認知症の患者さんの実態は分かっていませんでした。既にその頃、45歳以上で発症する人を初老期認知症といっていましたが、それよりも以前に認知症を発症している人も多くいたのです。しかし当時は、18歳から64歳までの認知症の患者さんに対応する制度は何もありませんでした。18歳以前に発症している場合は制度的に一律に、今でいうところの知的障害に組み入れられていました。そこで、若年認知症の人たちの実情に即した制度を作るために、各年齢における認知症発症の調査が必要だったのです。しかし当時国としては、老人の認知症への対応に主眼を置いていたので若年に対しては全く対応がなされませんでした。また当時の研究班では、若年認知症の危険因子(リスクファクター)を調べていました。最近、認知症の予防法についていろいろと発表されていますが、それは20年以上前に私たちが発表したデータとほとんど同じで、今になって新しいものが出ているわけではありません。平成3年からの群馬県における調査や、平成8年からの厚生労働省厚生科学研究若年痴呆研究班による調査で若年認知症のデータが出てから既に20年以上経っていますが、状況はあまり変わっていません。―厚生労働省が2009年に発表した結果では、若年性認知症患者は、調査時点で4万人弱、男性が女性よりも多く、発病年齢は平均で約51歳。また若年性認知症は、脳血管性型とアルツハイマー型の2つが圧倒的に多く見られると報告されています。若年認知症についてお聞かせください。―若年認知症の特徴国の調査によると、若年認知症では脳血管性認知症が最も多く、アルツハイマー病が最も多い老年期認知症と異なっています。日本における特徴かもしれませんが、外国では若年認知症でもアルツハイマー病が多いといわれています。おそらく合併している場合が多いので、一方を取ってアルツハイマー病と診断されているのではないでしょうか。但し、今後は日本の若年認知症でも脳血管性認知症が目立たなくなりアルツハイマー病が多くなっていくと思われます。その理由としては、最近言われている生活習慣病と認知症の関連で、特に糖尿病が大きいと思います。余談ですが私は講演などで沖縄の病院にも度々行っているのですが、沖縄は県民の肥満度指数が日本で最も高く、糖尿病の患者さんが年々増え続けているので、沖縄で

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