ドクタージャーナルVol.16
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11DoctorsJournalて、まずは実際に診察を行っている経験者が限られているためか、誤診が多いということです。そもそも認知症の専門医も多いとは言えませんが、若年認知症の専門医といえる医師はさらに少ないでしょう。また、今の認知症治療全般に言えることですが一番の問題は、治療がこま切れになっているという点です。つまり認知症の診断しか行わない医師が多い。認知機能の評価とか、薬は効いているかとかの診断に終始して、そのうちBPSDが出てきたりすると、自分では対応できないからと自分の患者さんを精神科に送ったり、寝たきりになれば施設に送ったり在宅に回したりするわけです。一人の認知症の人に対して、診断医、認知機能治療医、身体機能治療医、在宅・施設勤務医、というようなこま切れの治療が行われている。きちんとしたフィードバックがこの間には無いのです。これが今の認知症治療の根本的な欠陥です。認知症の治療で大切なことは患者さんを最後まで診ることです認知症治療では、最初を診たら最後も診ることが大切なのです。しかし、自分が診断した認知症の患者さんの最後を知らない医師が多い。最後を知らないから自分が付けた診断が正しかったのかどうかも判らない。ガイドラインを基に最初の診断を行ったとしても、その後の経緯をきちんと見ていればいろいろな変化に気付くはずです。実は複数の認知症が合併していることが多い。アルツハイマー病と脳血管性型の合併型もあれば、レビー小体病とアルツハイマー病が合併していることもあります。稀に脳血管性型に前頭側頭型が合併していることもあります。これらは途中の経過をきちんと見なければ判らない。最初の症状だけを診て診断を確定することは非常に危険をはらんでいます。しかも認知症と診断をつけた患者さんがその後どう変容していくのかは医師にも判りません。だから患者さんの最後までを診ないと、実際の経験も知識もフィードバックされないのです。結果として誤診も多くなってしまう。勿論、実際に患者さんを最後まで診ている認知症の専門医も多くおられます。しかし、医師にとって一人の患者さんに最初から最後まで関わることは決して易しいことではありません。それは今の制度上の問題、例えば患者を一人でも多く診ないと医療経営が成り立たないとか、一人の医師のキャパシティーの点とかを考えると、特に開業医にとっては大変なことです。そんな中で、心ある医師は大変なご苦労をされていると思います。ですから私は、認知症医療は医師だけでなくて、他の医療関係者、本人、家族も含めた分業だと考えています。ゆきぐに大和病院ではそのようして、認知症の患者さんに最初から最後まで寄り添う医療を行っています。今後考えるべき有効な取り組みとは従来の認知症専門医といった学会での資格取得だけではなく、医学部における認知症専門科の設置による専門教育が望まれます。そこでは、精神と身体の両者を診ることができる医師や、認知症のターミナル期を診ることができる医師を育成すべきです。現状のままでは、認知症の専門医といいながらも安易に薬を出す医師が増えかねません。認知症は、頭の中だけの病気ではありません。結果的に身体の各部にいろいろな症状が出てくる全身の病気です。合併症もあります。でもそこまで見ていない医師が多い。見て■若年認知症の最大の問題とは:宮永和夫氏 医学博士

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