ドクタージャーナルVol.16
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10DoctorsJournal退職を余儀なくされています。病気に対する苦しみだけではなく、失職したり社会との接点を失ったりして、大きな喪失感となって本人を苦しめています。当事者が抱える苦労の典型例として、(1)精神疾患同様に差別や、周囲の理解が乏しい。(2)家族が理解していないので、虐待や放置、閉じ込めが行われる。(3)医療の無理解、誤診の多さとその後の治療先がない。(4)福祉の無理解、対応の困難さと拒否。(5)行政の無理解、社会保障制度の利用制限や申請制限。などが挙げられます。ボランティアなどの社会活動の場や、自己実現できる場があることは、診断されてからも長い期間を生きなければならない当事者にとって生きる張り合いになります。病気について語り合える場、趣味の活動ができる場、認知症カフェのような集える場、社会参加の場が必要です。家族やケアをする人の課題理解や認識が不足しているため家族も病気とは思わず、時には当事者ができないことを無理強いしてしまうことがあります。介護者に合わせたケアです。本来のケアとは当事者ができないことを手助けすることのはずです。また物忘れやそれまで当たり前にできていたことができなくなるために、当事者のプライドや人格を傷つけてしまうことがあります。時にはネグレクトもあります。―若年認知症の診断と治療についてお聞かせください診断で最も重要なことは症状の経緯を追うこと鑑別診断すべき疾患を見据えつつ、症状の経緯を追うことです。そして患者さんと医師や多職種の連携による並走型の支援が大切です。私は、若年認知症医療は緩和医療・ターミナルケアと同義語と捉えています。診断・告知から終末期までの多職種による関わりや、本人と家族のQOLの改善、本人の痛みや苦痛、苦悩への対応を通じて最後まで患者さんに寄り添う医療という点では同じと言えます。社会的立場や価値観などの本人の属性を尊重することも大切です。今までの医療は本人の社会的立場や属性は否定し平等に扱うべきを旨としてきましたが、認知症治療で欠かせない生活指導の立場から考えれば、個別性は本人の個性と捉えて尊重すべきです。診断における留意すべき点とは若年認知症では、記憶障害よりは性格変化や意欲低下などからの発症が多いので、病院で診察を受けても、うつ病や更年期障害などと間違われることもあります。また若年認知症は、精神疾患、特にうつ病や高次脳機能障害(頭部外傷後遺症、脳血管障害を含む、幼児期におけるものだと更に鑑別は困難)、発達障害、知的障害、遺伝疾患との鑑別が難しいのです。精神科の病気と重なっている場合もあります。さらには、発達障害の人や統合失調症の人も認知症を合併することもあるので、非常にバリエーションが多くて診断はとても難しいです。老年期認知症の合併型と違い、若年認知症では機能的障害と器質的障害が混ざっていることがあります。現状の課題とは鑑別が難しいということに加え

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