ドクタージャーナル14号
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後には個人差があることも伝えてほしいです。 そして、本人がこれから前向きに生きていけるような言葉をかけてもらえたら、ありがたいです。 たとえ問題が解決されなくてもいいのです。私たちが求めているのは、医師が寄り添ってくれているという安心感なのですから。 また、そのときに、身近な地域で気軽に相談できる場所を紹介してもらえたら、自分がやるべきことがわかり、その後の生活への展望が持てます。私たちはそうした、いわゆる社会資源についての情報を、それほど知らないのです。 告知後は、そのときどきの診察や治療の内容を、本人に説明してください。そこに本人がいるのにもかかわらず、介護者にしか話しかけない医師がいます。介護者ではなく、まず本人への説明をお願いします。 診察や治療の内容は、あわせて書面やメールでもらえると助かります。そうすれば、診察のときにどのような指示があったのかを忘れてしまっても、あらためて確認できるので、負担が軽くなります。 複数の診療科にかかるときも、その文書を持参すれば安心です。医師には、認知症以外の医療についても、コーディネイトとフォローを希望します。 診断して、薬を与えて、それで終わり、というのではなく、私たちの話を聞いて、生活していくうえでのアドバイスをしてもらえたらうれしいです。認知症になっても幸せに暮らせる社会を 認知症になりたくてなる人はいません。 認知症になって、自分の生活、そして人生が大きく変わりました。 認知症になることは残念なことですが、けっして不幸なことではありません。 認知症になったら、できなくなることも多いですが、できることもたくさんあります。  本人は、何も考えられない人ではなく、豊かな精神活動を営むことができる人です。 本人は、医療や介護の対象だけの存在ではなく、どんなときでもかけがいのない自分の人生を生きている主人公です。 本人は、自分のやりたいことや、自分のできる仕事、ボランティアなどをつうじて世の中に貢献できる、社会の一員です。 認知症の人たちは、社会の「お荷物」的な存在ではなく、老いたり、生活が不自由になったりしても、だれもが自分らしく堂々と暮らしていける新しい世の中を、身をもってつくりだしている人たちです。 いま、認知症とともに生きている多くの人たち、そして、これから認知症になるかもしれない無数の人たちが、認知症になっても幸せに暮らせる社会を、一緒につくっていきませんか? 人間の価値は、これができる、あれができるという有用性で決定されるのではありません。何もできなくても、尊い存在なのです。 私は、これからも広く、認知症の人はこういうふうに考えているのだということを、社会に向けて訴えていきたいと思います。佐藤雅彦(さとう まさひこ)一九五四年、岐阜県生まれ。中学校の数学教員を経て、コンピュータ会社にシステムエンジニアとして勤務。二〇〇五年、五一歳のときにアルツハイマー型認知症と診断され退職。認知症本人の体験を伝えるために、講演活動をおこなっている。認知症当事者の会「3つの会」代表、「日本認知症ワーキンググループ」共同代表。初の著書が現在好評発売中!長谷川和夫氏(認知症介護研究・研修東京センター名誉センター長)、堀田力氏(公益財団法人さわやか福祉財団会長)も推薦しています。判型:四六判頁数:二〇八ページ定価:本体一六〇〇円+税出版社:大月書店

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