Doctors Journal Vol.8
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26りました。つまりHER‐2遺伝子が変異してHER‐2が過剰に発現すると、細胞増殖の刺激が増幅され乳腺細胞が異常増殖しがん化します。また、乳がんでもHER‐2が発現している患者はそうでない患者に比べて予後が悪いことも分かっています。従って、この過剰に発現したHER‐2レセプターが細胞増殖の刺激を受けずに沈静化していれば、がん化の速度は抑えられがんの進行が遅くなるという考え方です。そこで開発された抗がん剤がトラスツズマブ(商品名:ハーセプチン)です。主成分はHER‐2レセプターに結合するモノクローナル抗体で、この抗体でレセプターに蓋をして細胞増殖刺激を遮断するのです。従って現在は、乳がん患者ではがん組織のHER‐2タンパクもしくはHER‐2遺伝子の過剰増殖を検査して、患者ごとの治療戦略を立てることが一般的です。 このような分子標的薬の治療効果を予測する検査は「コンパニオン診断薬(CDx)」と呼ばれます。コンパニオンとは傍に寄り添うとか相棒と言った意味ですが、特定の薬剤と一緒に居て初めて役立つ診断薬と言う訳です。表2に日本で現在保険適用されている分子標的治療薬とそのCDxをまとめましたが、がんの分子生物学的研究は加速されており、特に肺がんでは10種類以上の発がん遺伝子が同定され、それぞれに効果が期待できる抗がん剤とそのCDxが同時に開発されています(図4)。CDxを利用した治療では、特定の薬剤の治療効果が期待できる患者を選別してから処方するため、無駄な治療が軽減され費用対効果に優れた医療を提供できます。従って、がん領域だけなく現在の医療では効果的な治療方法が少ないアルツハイマーなど中枢神経系疾患、喘息などの炎症性疾患での応用も期待され、開発が進んでいます。〈遺伝子検査と予防医療:正しい理解と適切な判断が求められる時代〉 米国女優アンジェリーナ・ジョ<表2>日本で悪性腫瘍を対象とした個別化治療の対象となる薬剤と検査  対象疾患乳がん胃がん肺がん大腸がん慢性骨髄白血病成人T細胞白血病    薬剤名(一般名)ハーセプチン(トラスツズマブ)イレッサ(ゲフィチニブ)タルセバ(エルロチニブ)ザーコリ(クリゾチニブ)アービタックス(セツキシマブ)ベクティビックス(パニツムマブ)グリベック(イマチニブ)タシグナ(ニロチニブ)ポテリジオ(モガムリズマブ)      効果予測のための検査がん細胞でのHER-2蛋白過剰発現、HER-2遺伝子の増幅がん細胞でのEGFR遺伝子変異がん細胞でのALKキメラ遺伝子の存在がん細胞でのKRAS遺伝子の変異が無いがん細胞でのBCR-ABLキメラ遺伝子の存在リンパ組織中または血液中のCCR4蛋白の存在<図4>非小細胞肺がんで同定されている発がん遺伝子Lancet Oncol. 2011 Feb;12(2):175-80Driver mutations in lung cancer

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